夫婦のカタチ
「でね、あの人が言ったの」
Y子は楽しそうに言った。結婚披露宴の出欠はがきを右左にわけながら。
「自分は子供をもつ幸せを知ったから、私にも知って欲しいって。」
私の葉書が出てきた。「欠席」を「寿」で消してある。Y子はこれが正しい書き方なのよ、とまた笑った。私は、すでに披露宴への「出席」を後悔していた。
「それで子供が大きくなったら、お互いもっとわかりあえるから、一緒に暮らそうって。」
Y子はまだ葉書をわけている。私は窓の外に小さくみえる工場を眺めた。
「で、いまあの工場で働いていて、10日後にY子と結婚する人はなんなの?」
そりゃ、「夫」でしょ、Y子の返事に迷いはない。
「子供に両親は必要だって、あの人も言ってたから。」
ああそうですか。あきれるというよりも、ありえないこの出来事の前に私は言葉がなかった。
Y子にはかなり年上の恋人がいた。その人は妻と別れて子供を育ててきた。Y子とはもう数年のつきあいになるという。その恋人が、Y子にも子供を持つ幸せを知って欲しい、そういったので、Y子は数ヶ月前に居酒屋で出会った「夫」と結婚する、という。もちろん、2人のことは話していないし、関係は続くのだろう。Y子は「夫」には関係ないことだから、とばっさり切って捨てた。
それから7年がすぎた。Y子は「夫」との間に3人の子供を持ち、忙しくしている。「あの人」とどうなったか、面と向かって聞く勇気は私にはない。
ある日曜日、Y子の部屋でお茶を飲んでいたら、Y子が楽しそうに言った。
「ほんとに、子供を持つのって幸せなことね。」