専業主婦の自己表現2
その女性はご近所さんで、ひょんなことから話をするようになった。50代の主婦だ。
飼い犬をみれば飼い主がわかる。その主婦の愛犬は人が大好き。手をのばすと一生懸命なめる。うれしそうにぶんぶんしっぽを振る。そのマルチーズがその人の人柄を語っていた。
そのころ私は医療事務の資格の勉強をしていて、その主婦は元看護師だということで話が合った。
結婚してもしばらくは看護師をしていた。夫はそれを、「自分の誇り」だと言ったという。結婚しても自立した生活をしていることが、きっとうれしかったのね、その主婦は語った。「いまでもラブラブなのよ」うれしそうに主婦は犬を抱いた。
数ヶ月して、私は医療事務で働きながら自分の道を模索していたころ、暗い顔をしたその主婦と会った。
どうしたのかときくと、旦那さんとケンカしたという。しかもそのとき、「自分の稼ぎがあるのに外に働きに出ていたことが嫌だった」と言われたという。子供ができて仕事をやめたときはほっとしたと。
その主婦は、自分のすべてが足元から崩れていくような感覚を味わったという。子供が自立したこれからまた、看護師として働こうと考えていた矢先だったとも言った。
私はなにもいわず、ただ話を聞き、あいづちをうっていた。50代の夫婦、しかもこんな微妙な問題。夫婦の数だけ夫婦があるのだ。私が口を出せることではない。
しばらく、散歩にいかず、窓から外を眺めている犬を見かけた。近づくとよろこぶ。
それから半年ほど、つい最近。夜、私が仕事から帰ると、家の前をその主婦が旦那さんと手をつないで歩いていた。暗かったので、私には気づかなかったようだ。幸せそうに笑いかけていた。私は黙って自分の家に入った。