見えない線路
レールの上
それは第3者の目から見ると明らかだった。
彼女は、彼女の婚約者の敷いた、見えない線路の上にいる。
見えないレールの上にいるのだ。
それを指摘することが、本当に彼女のためかといわれれば、おそらく否。否だ。
だからその日、私は彼女を試すことにした。
第3者話法
いつもの飲み屋。彼女、H美は結婚相手をみつけて上機嫌。私はタイミングを見計らう。
話がそれて、チャンスは来た。
「ああ、そうそう、あのね、私の友達の話なんだけどさ」
H美はうんうんと両手でほおづえをつき、とろんとした目でこっちをみた。
「その子はね、相手の両親と暮らさないで、彼氏の兄の持ってる都心のマンションで生活することを目標に、彼氏との結婚を考えたわけ」
うんうん、H美はとろとろ答えた。
「で、まず最初に、伏線として、自分の友達に彼氏を会わせたの」
H美は私の話の先が読めないのか、黙った。
「それから、偶然を装って、街で自分の親に彼氏を会わせたわけよ」
そうしたら、いやでも結婚を考えるでしょ?H美は緩慢にうなずいた。
「それから、マンションの近くに住んでいるって設定の友達に彼氏を会わせたの」
H美が首をかしげる。
「それから、自分がストレスに弱いっていう演技をした。二世帯なんてとんでもないって、彼氏に思わせるために」
H美が真顔になる。
「そんで、あとは結婚したいと思わせるため、相手の言うことはいはい聞いて、いい彼女ぶりを見せたのよ」
やりてだよね、私はそう締めくくった。
H美は顔色を変え、私におそるおそる聞いた。
「マルちゃん・・・、私、なんかその話、人ごとじゃないんだけど・・・」
H美は、やっと自分がレールの上を歩かされていることに気付いた。
婚約は解消されるかもしれない。しかし、H美が不本意に仕事をやめ、夫について東京をはなれることはもうないだろう。